年の初めに話すのは…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


暖冬かと思わせといて、
二月に帳尻合わせのように豪雪が見舞うような。
そういう落差の激しいのもどうかと言われはするけれど。
暖かい時期がある方が良いよなぁなんて、
今更そんなやくたいもないことを ついつい思ってしまうほど、
この冬はなかなかに手厳しく。
師走の声とともに冬将軍が厳寒連れてやって来て、
そうなると月末のイベントの時期は多少緩むかと思や、
クリスマスも大みそかも狙ったようにやはり極寒で。

 「日本じゃあ猛暑だった年は冬も厳しいっていうらしくって。
  そんなの単なる言い伝えっぽいものだと思ってたら、
  ちゃんと根拠があったらしいですよ?」

言い伝えってのも妙な言い方だけれどと自分で突っ込んでから、

 「昔から“そういうもんだ”って語り継いで来たってだけじゃあなくて、
  夏の暑さが響いて北極海の氷が少なくなるから、
  冬場の大陸を渡る気流のコースがずれて、
  オホーツクの方へ抜けないで
  日本海へ下るコースになっちゃうんですって。」

それで、寒気団が がんがんと長々と降りてくるんですよって、
こないだNHKの気象予報士のお兄さんが言ってたものと。
窓辺の束ねられたカーテンの陰に
さりげなく押し込まれてあった丸卓を引っ張り出しつつ、
平八がそんな一説を口にすれば。

 「うあ、そうなんだ。」

でもじゃあ、
だったら夏のうちに予想はついてたんじゃない、

 「それなりの心構えとか冬支度とか出来ただろから、
  長期予報より手前くらいにでも 言っといてほしかったなぁ。」

そんなやり取りを交わしつつ。
こちらはこちらで
飴色のつやの下に品のある木目が透ける、
自分のお顔が隠れそうな直径の大鉢を、
提げて来たトートバッグから七郎次が取り出すと。
平八が引っ張り出した卓の上へ、
いつもの事よと言わんばかりの手慣れた様子でデンと置き。
そしてそして、そんな二人の言いようへ、

 「………。(頷、頷)」

もっともだ、もっともだと何度も頷首しながら、
そちらさんも細い肩へと提げて来たトートバッグから、
チョコだのクッキーだの市販の菓子類をどさどさどさと、
大鉢へ小箱のまんま空けてゆくのが久蔵だったりすりものだから。

 「こらこらこらこら、お前らなぁ。」

そちら様こそ真っ当な理由で此処へと来ていた黒髪の美人、
こちらの保健医も兼任しておいでの榊兵庫せんせえが、
お嬢様がたのやりたい放題へ、
きれいに整えられた細い眉をきゅきゅうと顰めて見せる。
曰く、

 「此処は仮にも保健室なんだぞ?
  衛生上、飲み食いは厳禁だってことくらい判らんのか。」

それでなくとも、
常備薬だの備品や消耗品だのの点検中だってのにと。
素通しのガラスがはまった観音開きの扉も味のある、
元は白木だったろに
なかなかに年季のいった使いようを思わせる、
レトロな薬品棚の前から、そんな注意を飛ばしておいで。
自身の診療所とは別に、
女学園の保健室を週に何日か預かる身であるがため、
月に一度の備品チェックにと登校して来た彼だったのへ、

 『あら、せんせ。』
 『まだ冬休みだってのに。』
 『……。』

自分たちだって登校して来ておりながら、
意外そうな声をかけて来たのが、彼には特に顔なじみの三華さんたち。

 『お前たちこそどうした。』
 『シチさんところの剣道部、明日 寒稽古なんですよ。』

近隣の他学校との合同ながら、
丘の上の神社までの石段を駆け上がり、
まだまだ寒い中、辿り着いた境内で一斉に
素振りやら打ち込み合いやらをこなすのだそうで。

 『なので、
  終わったそのまま汗を冷やさぬようにというのと、
  ちょっとしたお腹塞ぎに、お汁粉を出すことになって。』

家庭科で使う調理室を借りようと思ってたら、
学食の調理場を開放してもらえることになったんで。
八百萬屋から餅やら小豆やら食材を搬入して来て、
小豆を洗ったり大鍋を洗ったり、椀や箸を揃えたりと
明日の下ごしらえをしていたところだと。
あっけらかんと応じたのだが、

 “そういうのって、各校のマネージャーとか、
  いっそこの子らの場合、
  世話役がすることじゃあなかろうか。”

日頃のざっかけない言動とか、
お転婆なお顔にずんと親しいものだから、
ついつい忘れそうになるものの、
彼女らは…気性や人性はともかく、
そのお育ちが、ごくごく普通の平凡な女子高生ではない身。
差し入れにせよ炊き出しにせよ、
思いついたのが彼女らであっても、
下ごしらえなんて段階は
それぞれの家へ奉公している
腕に覚えの顔触れが引き受けるものじゃあなかろうか。
そういう人物を抱えていることも含めて
“さすがは○○家のお嬢様”と言われるのが
真っ当なコトの順番となる、別世界の存在のはずだと、

 “もしかして本人たちにも、そういう自覚はないのかねぇ。”

ついのこととて そうと思えてしまうほど、
このお嬢様たちと来たら、
思いついたそのまま、何でも自分で手掛けてしまう傾向(ふし)が強く。
それがこういった微笑ましいことだけで収まりゃあいいのだが、
女子の敵やら怪しい影やらが相手の
ピピンと察知してから咬みつくところまで○という荒ごとまでも、
“自分のことは自分で”な人たちなもんだから困ったもんで。
まま、そっちは今は関係のない話だから置くとして、

 「明日の支度とやらが済んだんなら、
  とっとと帰ればよかろうに。」

 「まあ冷たい。」

自分のお仕事を進めんと、
備品リストを挟んだバインダーを手にしつつ。
その背後で、断りなく…どうやらお茶会の支度が始まっていたのへ、
こらこらと水を差した榊せんせえだったのだけれども。

 「そちらが済んだら、
  久蔵殿をお家まで送って行かれるのでしょう?」
 「う…。」

そうという具体的な会話は交わしちゃいないが、
彼女らと昇降口で鉢合わせた折、
何とはなし久蔵のお顔を見やった一瞥に、
そういう含みを持たせたのは事実。
久蔵の側でも、気づいた上でだろ視線を止めたままでおり。
それをそのまま、
意を読んでの“承知”というお返事…と解釈するのが、
こちらのお二人の“いつものこと”なのだそうで。

 “さすが、そういうことへ目ざといのは、
  年頃の女子だからかねぇ。”

手にしていたボールペンの尻で
こめかみ辺りをほりほりと掻きつつ、
それ以上は畳み掛けも出来ぬまま、
苦笑をこぼすしかない兵庫せんせえだったりするのであった。




     ◇◇◇


何も、毎日毎日 外来診察があったり、
急患が運び込まれるような“診療所”でなし。
備品にしても消耗品にしても、
そうそう補充の必要がある変動を見せるではなしで。
よって、在庫の確認といっても、それほど手間の掛かることではなく。
日ごろ使いの棚やデスクの引き出しの中に収納している、
絆創膏や頭痛薬や消毒薬、シップに包帯の減りようを確認するくらい。
年末に確認したのと寸分違わぬ配置なの、
手っ取り早く確かめた兵庫せんせえも加わって、
市販のお菓子ですいませんがと始まったのが、
三華様がたと榊せんせえの、お茶会 in 冬の保健室。

 「まま、此処で大怪我することなんて、
  まずはありえませんものね。」

剣道部の鬼ユリなぞという
おっかない二つ名を冠されている 七郎次のように、
激しいスポーツに打ち込んでいる顔触れが、
全くいないワケじゃあないけれど。

 「大会出場までは目指さなくとも、
  バレエだのテニスだの嗜んでるお人も
  意外とおいでだけれど。」

そんな格好で、
平均的な体力くらいは何とかお持ちの皆様だけれど、それでもね。
なにぶん、上流階級のお嬢様たちが集う学舎なので、
普段の所作や動作へも、
品があっての慎重だったり臆病だったりし。
結果、指先をちょんとついたり切ったりするのが、
出血に卒倒しかねぬ“大変な負傷”となるほどだとか。

 「フランス刺繍やキルトなんての、
  趣味以上の域でこなすお人もおいでですからね。」

 「そうそう。」

そんな環境だから、シスターもおいでなのに任せてのこと、
保健医がそうそう毎日詰めてる必要はないのだよと。
うんうんと頷いた黒髪痩躯の榊せんせえだったが、

 「あ、でも。
  兵庫せんせえは、棘を抜くのが凄っごく上手だって、
  華道部や園芸部の子が言ってましたが。」

 「……っ☆」

これもひなげしさん持ち込みの、
しかも最先端保温ポットとやらから そそがれた、
薫り高い紅茶を受け取ったばかりの美貌の校医さんが。
白百合さんからの、
あっけらかんとしていつつも思わぬ言われようへ虚を突かれ。
それへ続いたひなげしさんの、

 「女性のようなきれいな手で、
  そおっと繊細に扱ってくださるのが安心だし。
  殿方に手を取っていただくなんて滅多にないことだから、
  そういうんじゃないって判っているのに、
  何だかドキドキしてアガってしまうって…。」

そんな言いようを聞くに至って、
冷静沈着な風貌を大きに弾かせつつの
“あわわ”と焦って見せたのは。
そのすぐ傍らに座していた紅ばらさんが、
ほぼすぐさま、

 「〜〜〜〜。」

切れ長の双眸を心持ち吊り上げたからこそ。

 「物凄い息の合いようですねぇ。」
 「シチさん、シチさん。」

白百合さんのあまりの天然ぶりには、
いやいや、夫婦漫才じゃないんだからと、
さしものひなげしさんも呆れてしまったけれど。
そんな七郎次お嬢様といい勝負で、
クールビューティな風貌を
大きく裏切る“天然さん”なはずの久蔵お嬢様が、
聞き捨てならぬと感じたのは果たして。
校医という“職員”のくせにという
道徳的な意味合いからの憤慨か。
それとも…?

 “いや、それはしらじらしいでしょう。”

感情表現の薄いことに定評のある紅ばらさんが
こうまで判りやすく憤慨するからには、
ずんと激しくお怒りだからこそであり。
チョコをコーティングされたスティックプレッツェルを
数本まとめて手にすると、
バリボリと勢いよくむさぼっているのも、
激しいお怒りのほどの現れか。
とはいえ、

 「………美味い。」
 「あ・それ 新製品なんですよvv」

エア感の利いたコーティングチョコが、
マロンベースのキャラメル風味と新鮮だったので。
紅ばら様の激しいお怒りが一瞬沈静化したほどの威力を発揮。
そんな様子を兵庫せんせえが傍らから見ておれば、

 「………ん。」

自分がかじったチョコレート、
ほれと せんせえのお顔の前へと差し出す久蔵も久蔵なら、

 「うん。」

そのまま齧ってしまったせんせえもせんせえで。

 「お、美味いな。」
 「………vv(頷、頷vv)」

そうだろう?と、
まるで自分の手柄みたいに
にっこし微笑った久蔵の様子が何とも無邪気で愛らしく。

 「さすがは蓄積のある差ですかね。」
 「昨日や今日の浮気ごときじゃ揺るがないってですか?」

誰が浮気なんか…じゃあなくて、と。
突っ込みかけて、いやいやそうじゃなくてと、
気を取り直すお忙しさを見せる、黒髪のせんせえだったが。
確かに、久蔵お嬢様がまだまだ幼いころに出会ってからこっちという、
10年以上にも及ぶ 長きに渡るお付き合いは伊達じゃなく。
たとい、前世でも共にいたという記憶が戻らなくたって、
支障はなかったのじゃあなかろうかという
鉄板レベルの睦まじさが既に築かれておいでのお二人。
やっかみも追いつかないやねと肩をすくめつつ、
今度は白百合さんとひなげしさんが
こっそり苦笑をこぼしたのは言うまでもなかったのでありました。


  つか、
  用が済んだのなら早く帰りなさい、あんたたち。






NEXT


  *しまった、思ってたネタまで辿り着けなかった。
   実は病院で迎えてしまった“夫婦の日”だったもんだからと、
   取り留めのないネタをあれこれひねっていた中の
   これはあくまでも1シーンでして。
   この後に、肝心な“将来の話”ぽいのが出て来るんですけれど。
   というわけで、もちょっと続きます。
   (言っとくけど大したネタじゃないぞ〜。)
こら


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